「そっち持って！同時に引きましょう！せええの～」
「じゃあ、僕は駅員さんに言って来ます！」
ある朝の中央線の電車の中。
私は、三鷹駅から東京行きの快速に乗車。
少し込んでいたので、私は各駅で押し込められるように車両の中央部に移動していました。
車両の連結近くの位置が好きな私は、15分ほどたって新宿駅に着き、たくさんの人が降りたタイミングで、好みの位置に移動しました。その時・・・
「せえ～の～」
え？何？
私は、大きな声がしたその方向を見ました。
そこには、2人の男性が、閉まっているドアの中央の隙間に指を掛けて、左右に引っ張り開けようとしているではありませんか！
電車は、新宿駅に着いているのですが、彼らが開けようとしているのは、ホーム側とは反対側のドア。
見ると、若い女性の服がドアに挟まり、抜けないのです。
きっと中野駅でドアが閉まったときに挟まれてしまったのでしょう。
JRのドアは、1cm弱の物が挟まったくらいでは、ドアの挟み込みセンサーは反応しません。
なので、そのまま新宿駅まで来てしまったのでしょう。
私の目の前では、それに気がついた男性ふたりが、ドアを開けようとしているのですが、残念ながら、ホーム側と反対側のドアは、そう簡単に開けられるものではありません。
だって、簡単に開いたら危険ですからね。
でも、そのドアは、2名の男性のパワーのお陰で1cm近くは隙間が出来ているのです。
ん？？服が挟まったくらいならば、この幅があれば抜けるはずではと思いながら、私もドアの隙間を広げるために手を掛け、同時に、彼女と一緒に、服を慎重に引っ張ったのです。
なるほど、彼女の服のポケットには、スマホが入っており、それごと挟まれたので、少しくらいの隙間では引っかかって抜けないのです。
その様子を見ていた別の男性が、「駅員さんに言ってくる」と言って電車から降りていきました。
そして、また別の男性が、ドアの隙間に手を掛け、広げるのを手伝い始めたのです。
その車両の中は、目の前の問題の解決に取り組むひとつのチームと化していました。
お互いに知り合いではありません。
しかし、目の前の問題と目標ははっきりしています。
それぞれが、自分が何をすれば良いのかを瞬時に把握しているのです。
そして、全力で、問題解決のために成すべき事に全力で取り組んでいるのです。
しばらく、力を込めた作業が続きました。すると、
スポッ！！
ようやく、少しだけ開いたドアの隙間から、彼女のスマホの入ったポケットを引き抜くことが出来たのです。
「あああ～どうも、ありがとうございました。助かりました・・・」
彼女の顔には、ホッとした安堵の笑顔が浮かんでいました。
そして、この問題にチームとして参加した数名の男性達の顔にも一様に笑顔が浮かんでいました。
お互いに顔も名前も知らない、しかし熱いタスクフォースチームは、これにて解散です！
「東京行き、ドアが閉まります・・・」
そして、何事も無かったかのように東京行き快速電車は、新宿駅を発車しました。
数分後、快速電車は、四ッ谷駅に到着。
プシュー！
先ほど一生懸命に開けようとしていたドアは、軽やかに開いたのでした。
そうだよね～次の駅まで待てば良かったんだよね～
ま、でも、あのチームの一体感を共有出来て問題を解決できたから良しとしましょう！
ん？そう言えば、駅員さんに伝えに行った人・・・・戻ってこないね・・・
電車は動いてしまったし・・・彼はミッションを達成できなかったのね・・・
ああ～残念！！
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